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2012年10月

2012年10月18日 (木)

組ませる柔道

かの有名な達人・三船久蔵十段は
「相手に触れずに投げることができないか」研究したという

さすがに組まずには投げれられないということで、
今度は相手を極限まで崩し、相手を担いだり払ったりせず
そのまま投げる空気投げ(隅落)を考案したと言われている

「組まずに投げることができないか」この発想がまず達人である。

さて、私が現役だった時代は「組ませない柔道」が横行していた。
私自身、軽量級(中学55kg級、高校60kg級)であったが、
団体戦のレギュラーとして国士舘や講道学舎の大型選手とも試合をしていた。

そこで必須だったのが「徹底して組ませない組み手」だったのである。
相手に絶対に奥襟を持たさないようにし、背負投、巴投で股下に潜り込む、
鍛えた寝技でしぶとく時間を稼ぐ。
そうして引き分けに持ち込み、ポイントゲッターに繋ぐのが私の役目だった、
団体戦での私は「分け役」だったのだ。

「大きい選手には徹底して組ませない」
これが足立学園で教わった、いや鍛え込まれた鉄則だった。

大学生になり、あるときのジュニア強化合宿で、私たちは
視覚障害者柔道の代表選手と練習する機会があった。
最初に組んだところから始まる以外、ルールはほとんど一緒である。
私はある重量級選手と乱取りをすることになったのだが
「怪我させないように、足技で遊んでやるか」という気持ちで臨んでいた。

ところが、相手選手の払腰一発で私は宙を舞った。
私自身、重量級ともよく稽古していたが、そんなに投げられることもなかった、
だから油断をしていたのかもしれない。
少しギアを上げていこうと再び組み合ったが、またも一発ではじき飛ばされた。
その乱取りが終わるまで、私は何度投げられただろうか、まさにコテンパンにやられた。

それを見ていた筑波大学の恩師・小俣幸嗣氏が笑いながら助言をくれた
「小室は組んだ柔道してないから捌けないんだろ」

未熟だった私には言葉の意味がよくわからなかった。
重量級相手に組まさないのは当たり前、組まれたところから始まってしまう
このルールでは軽量級は不利だ。
私は自分の未熟さをルールのせいにし、自分を慰めた。

それからまた暫くたった大学3年のある日、私は群馬の高校に呼ばれ合宿に参加した。
そこである筑波大OBの重鎮から巴投を教わる機会を得た。
巴投の説明自体、とてもわかりやすく、また特徴のある実戦的な入り方で
参考になったのだが、それ以上に今も心に残っている言葉がある。

持たさないから組み手を切られる
切り合いになるから勝負にならない
少しは持たせてやれよ
技の勝負ならお前らの方が強いだろ?

ぶっきらぼうな言い方だったが、目から鱗が落ちる思いだった。

全く組ませず、自分だけが持っていようとすれば、それは相手も必死で
組み手を切り、仕切り直そうとする。
そればかりに終始していては、片手で技を掛け続けられる方が判定勝ちするようになり、
技の攻防はほとんど望めない。

実際、国際柔道連盟は柔道衣の規格を大きくし、ピストルグリップや
ポケットグリップ、片襟の持ち方に制限を加え、一本トロフィーを贈呈するなど、
「組んで投げて技で勝負する」柔道への変革を推し進めていた。

私は「10対0」で組み勝つことを心がけていたが、それ以降は
「6対4」または「5対5」でも良しとするようになった。
稽古でも試合でも、組み手争いで消費する時間は次第に少なくなり、
以前は全く相手を投げることができなかった私も、少しは投げる技術を身につけることができた。

中高時代、勝負に徹するあまり組み手争いに終始し、
それが逆にあだとなって投技を磨くことを犠牲にしてしまった。
今となってはもう遅きに失したが、今後の指導の肥やしにしたい。

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