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2012年8月 5日 (日)

柔道ロンドン・オリンピック雑感(技術編)

年に一度のオリンピックが終わりました。

色々メディアで報道されていることはあるが、私なりの雑感を記していきたい。

今回、まず気になったのが腕挫腋固である。これは2つある。
一つは喧嘩四つの体勢で、内股や払腰をかける、そこで決まらないとみると
相手の釣り手を抱えながら手首・肘を極め、内股巻込のようにして前転していく。
相手は当然、手が極まったしまうので回転しながら逃れる。
いわゆる「極め投げ」なので、投技としての効果は無いはずだし、危険である。
それでも相手が反応してしまうので、現状、審判は反則を適用できないでいる。
Photo_2
もう一つの腕挫腋固は、中国の女子選手が多用していた。
日本でも田知本選手がこれにやられてしまった。
まず腕を抱えて巻込技を狙う、これは取りあえず投げも狙っていく。
やや腰が入り過ぎるようにして仕掛け、潰れるとすぐさま反転して
腕挫腋固に連絡していく。
腕挫腋固が反則になるのは体重をかけて逃れられないようにした場合である。
したがってこれは反則にならないだろう。
日本人指導者は嫌う人も多いだろうが、私は投技と関節技を連結させた妙技と捉えている。
知っていれば対策も立てられただろうが、いきなりこれをやられると対応は難しい。

60kg級の決勝で平岡選手が掬投にいったところ、豪快に巻き込まれてしまった。
あそこは勝負しにいったところなので仕方の無いところだが、73kg級の決勝でも同じ場面が見られた。同じロシア人選手である。
外国人選手同士の試合では間合いが近いことが多く、掬投も多用される。
当然、その対策もしっかりとられている。チャンスと思っても誘われている可能性もある。リスクは覚悟しなければならないだろう。

男子73kg級決勝で、ロシア人選手が見せた中矢選手の袖釣込腰に対する
跨ぎ十字は素晴らしかった。最初から狙ったものではないかもしれないが、
あの反応の早さは相当の練習量と、常に極めにいく意識がないと出来るものではない。
あれを耐え、最後まで戦い抜いた中矢選手も賞賛に値する。
ただ怪我の影響なのか、最近、効いていた大外刈が見られなかったのは
怪我の影響なのだろうか?リスクを恐れたのか?
残念だったのは試合後、勝利したロシア人選手が中矢選手を跨ぎ、両手を広げて相手を見下ろしていたことだ。あれは柔道家としてやって欲しくなかった。

寝技と言えば穴井選手があっさりと抑え込まれた。
あの一試合を見て日本柔道の寝技を語るのは軽率だろう。
個人差が大きいからだ。

この件に関しては後述するが、相手選手の寝技は決して上手いものではなかった。
返し方、足捌き、抑え込み方についても力任せで雑だった。
では何故極まってしまったのか?

まずオリンピックで絶対に負けたくない(失敗したくない)という状況で、
不得意な寝技で安全策(亀姿勢の防御)をとったが、徹底しきれなかった。これに尽きる。せめて二重の足絡み、抑えられた後もエビをして差し戻すくらい出来なかったのだろうか?
おそらく、いくら立ち技主体の選手であってもそれくらいは出来るはずだ。
しかしそれが出来なかったというのは、オリンピックという一大イベントが彼から冷静さを奪ったのかもしれない。

付け加えると、亀姿勢の防御というのは、立ち技の組み手で例えるなら完全に組み負けた状態である。相手に好き放題攻められる状況で、審判による救いの手「待て」の宣告を待つだけという言わば逃避である。
団体勝負に主眼を置き「分け役」という戦術が存在する高専柔道・七帝柔道と、
私が取り組む「競技柔道」において「亀」に対する価値観だけは決定的な相違点である。
「現代柔道において亀姿勢の防御は安全策ではない」
ということは現役選手には強く伝えておきたい。

3年前のルール改正により足への直接攻撃が禁止された。それにより組み合わざるをえなくなった外国人選手は新しい技術の開発に苦心しているのだろう。
オーソドックスな投技を身につけるのは当然時間がかかる。

その結果、様々な(場合によっては反則ギリギリの)技術が繰り出されている。
寝技に活路を見いだした選手もいるようだ。
本当に怖いのは、4年後、8年後となったときに体力の優れた選手が、日本人並みに技術力を身につけたときである。「競技」という一面では驚異であることには間違いない。
しかし日本が本来求めていた「正しい柔道の普及」という意味では期待して良いのではないだろうか。

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コメント

おひさしぶりです。前岩谷堂高校です。現紫波高校ですが・・・。

>現代柔道において亀姿勢の防御は安全策ではない

亀姿勢から攻めの技法はたくさんあるのに、高いレベルで取り組んでいる選手や指導者でも忘れているか知らないことが多いようです。
それが残念。

>勝利したロシア人選手が中矢選手を跨ぎ、両手を広げて相手を見下ろしていたことだ。あれは柔道家としてやって欲しくなかった。

サンボや民族格闘技の礼法を見て下さい。たくさんの柔道選手が出場していますが、みな礼法を守っています。
礼法の精神はどの国でもあります。ロシアの日常文化にも尊敬、謙譲、丁寧があります。謙譲は日本だけと思っている人が希にいますが、そういう人ほどかえってロシア的謙譲の精神は分かりやすいでしょう。
その彼らが国際柔道のときは礼法を守らないのです。
これはおかしなことです。
もしかすると礼法の指導そのものが行われていないのかもしれません。
柔道は「あれで良いのだ」と思われている。

大会前に出場選手にルールと礼法の研修を義務付ける必要があるのではないでしょうか?

投稿: 柔道部長 | 2012年8月 7日 (火) 11時56分

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